原文
傷寒 若吐若下後
心下逆滿 氣上衝胸 起則頭眩 脉沈緊
發汗則動經 身爲振振搖者 茯苓桂枝白朮甘草湯主之 方三十
傷寒。若しくは吐し、若しくは下せし後、心下逆満し、気上って胸を衝く。起てば即ち頭眩す。脈沈弦。汗を発すれば即ち経を動じ、身振振として揺を為す者は茯苓桂枝白朮甘草湯がこれを主る。(方三十)
茯苓桂枝白朮甘草湯方
茯苓四兩 桂枝三兩 去皮 白朮 甘草各二兩 炙
右四味 以水六升 煮取三升 去滓 分温三服
- 茯苓桂枝白朮甘草湯(苓桂朮甘湯)掲載条文傷寒論67条、金匱要略12-16条・12-17条
- 傷寒論:桂枝(皮を除く)、朮2両、甘草(炙る)、服用前に滓を除く
- 金匱要略:桂枝、朮3両、甘草、服用前に滓を除かない
条文解説条文を細かく解釈してみよう
傷寒感染症(傷寒)。病原微生物は特定できない。
若吐若下後吐く・下す治療で脱水(循環血液量減少)+電解質異常(低K、Naなど)、あるいは感染症による嘔吐と下痢だろうか。口渇の記載がないことに注意。脱水・電解質異常(高Na、低K、高Ca)がない、あるいは神経異常のために口渇を訴えないことが考えられる。 →若吐若下後
心下逆滿胃食道逆流症を起こしていると考えられる。なお「心下逆満」という記載は本条にしかない。
氣上衝胸胃食道逆流症あるいは循環血液量減少による突き上げてくる感じだろうか。この場合、気上衝胸の「気」は胃酸を指すのかもしれない。
起則頭眩低血圧と考える。「起則」とするからには循環血液量減少による起立性低血圧と考えたくなるが…。
脉沈緊沈なので低血圧。緊なので交感神経は亢進。浮で緊=弦と言われている
發汗則動經 身爲振振搖者これ以上体液を失えば、と読む。もしくは低カリウムで筋力低下か。または低血糖による震えの可能性もある。
考察この条文はどのような症状を指しているのだろうか?
・抗菌(鉄排除)、血圧を上げる方剤
・口渇への言及がないので脱水はないのだろうか。
・血栓対策は考慮されていない(牡丹皮、芍薬、茵陳蒿などの配合がない)。
・朮は抗菌。胃酸の逆流があるのでβオイデスモールを含有し、胃酸分泌抑制効果がある蒼朮を使いたい。
・茯苓は抗菌、パキマン(腸粘膜保護)、トレハロース(炙られた甘草には配糖体がないため茯苓のプロビタミンDは抽出されないと思われる)。
・甘草配合=腎障害、高Na血症、低K血症、アルカローシスは考えにくい。低Naはあるのだろうか?
・桂枝は抗菌、縮合性タンニンによるタンパク質の消化阻害・鉄の吸収阻害・腸粘膜の保護。下痢なのでタンパク質を吸収させない。もしくは感染症、寄生虫からの保護。
- 茯苓のトレハロースは浸透圧調整。
中国伝統医学ではこう考えた催吐や瀉下を行うと「脾胃の虚」となる。本条の心下悸以降の症状はこの「脾胃の虚」によるものとしている。
日本漢方ではこう考えた
症状への類方脱水と言えば五苓散ですが…
発汗による循環血液量低下には五苓散を用いる。催吐・瀉下による脱水である本方剤は、電解質異常を伴っている。
五苓散
傷71条・72条・73条・74条・141条・156条・244条・386条、金12-31条・13-4条・13-5条
構成生薬の類方構成生薬が類似した方剤と比較すると…
茯苓甘草湯
傷73条・356条
桂苓五味甘草湯
金12-37条
苓甘五味姜辛湯
金12-38条
苓甘姜味辛夏仁黄湯
金12-41条
関連処方
「傷寒」+「若吐若下」を含む条文
- 宋版傷寒論67条
康治版傷寒論21条 -
傷寒 若吐若下後 心下逆滿 氣上衝胸 起則頭眩 脉沈緊 發汗則動經 身爲振振搖者 茯苓桂枝白朮甘草湯主之 方三十
傷寒。若もしくは吐し、若しくは下せし後、心下逆満し、気上って胸を衝つく。起たてば即すなわち頭眩す。脈沈弦。汗を発すれば即ち経を動じ、身振振として揺を為す者は茯苓桂枝白朮甘草湯がこれを主る。(方三十)
茯苓桂枝白朮甘草湯(苓桂朮甘湯)方
茯苓四兩 桂枝三兩 去皮 白朮 甘草各二兩 炙
右四味 以水六升 煮取三升 去滓 分温三服 - 宋版傷寒論161条
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傷寒發汗 若吐若下 解後心下痞鞕 噫氣不除者 旋復代赭湯主之 方二十三
傷寒。汗を発し、若しくは吐かせ、若しくは下して解せる後、心下痞鞕し、噫氣の除かれざる者は旋復代赭湯これを主る。(方二十三)
旋復代赭湯方
旋復花三兩 人參二兩 生薑五兩 代赭一兩 甘草三兩 炙 半夏半升 洗 大棗十二枚 擘
右七味 以水一斗 煮取六升 去滓 再煎取三升 温服一升 日三服 - 宋版傷寒論168条
康治版傷寒論42条 -
傷寒 若吐若下後後 七八日不解 熱結在裏 表裏倶熱 時時惡風 大渇 舌上乾燥而煩 欲飮水數升者 白虎加人參湯主之 方三十
傷寒。若しくは吐し、若しくは下して後、七八日解せず。熱は結ばれて裏に在り、表裏倶に熱し、時時惡風す。大いに渇し、舌上乾燥して煩し、飮水數升を飲まんと欲する者は白虎加人參湯これを主る。(方三十)
白虎加人參湯方
知母六兩 石膏一斤 碎 甘草二兩 炙 人參二兩 粳米六合
右五味 以水一斗 煮米熟 湯成去滓 温服一升 日三服 此方立夏後立秋前 乃可服 立秋後不可服 正月二月三月尚凛冷 亦不可與服之 與之則嘔利而腹痛 諸亡血虚家 亦不可與 得之則腹痛利者 但可温之 當愈 - 宋版傷寒論212条
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傷寒 若吐若下後後不解 不大便五六日 上至十餘日 日晡所發潮熱 不惡寒 獨語如見鬼状 若劇者 發則不識人 循衣摸牀 惕而不安 微喘直視 脉弦者生 濇者死 微者 但發熱讝語者 大承氣湯主之 若一服利 則止後服 四
傷寒。若しくは吐し、若しくは下して後、解せず。大便せざること五六日。上は十餘日に至る。日晡所潮熱を発し、惡寒せず、獨語して鬼状を見るが如し。若し劇しき者、發すれば則ち人を識らず、循衣摸牀じゅんいもしょうし、惕てきして安んせず。微喘して、直視し、脉弦なる者、生き、濇なる者、死。微なる者、但だ發熱し、讝語する者、大承氣湯これを主る。若し一服して利するときは、則ち後服を止む。(四)