私が提案したい漢方エキス剤の運用方法

同じではないことに注意!

煎じ薬の処方・服用が現実的に難しい以上(→「漢方エキス剤の長所と短所」)、漢方エキス剤をどれだけうまく運用し、個人の病態にあわせるかが現代の漢方処方に重要なスキルです。

それには主に、以下の方法が考えられると思います。

  • 合方(複数の漢方エキス剤を同時に服用する)
  • 加法(漢方エキス剤に単味生薬を追加する)
  • 一般漢方製剤を活用する
  • 食事に注目する

合方(複数の漢方エキス剤を同時に服用する)

複数の漢方エキス剤を同時に服用する(=合方)ことで、患者さんにぴったりな処方ができる場合があります。同時に複数の症状が出た場合にも合方を行うことがあります。ただ、合方によって、必要ないのに、入ってほしくないのに、結果として多く配合されてしまう生薬がある場合があります。

芍薬甘草湯と加味逍遙散の合方

例:芍薬甘草湯と加味逍遙散の合方 芍薬と甘草の量に問題はないか?

その生薬の重なりに問題がないか否かは慎重に検討する必要があるでしょう。詳細は各方剤で解説します。

加法(漢方エキス剤に単味生薬を追加する)

単味散剤が販売されている生薬があります。漢方エキス剤は配合生薬を減ずることはできませんが、単味散剤を使えば、患者さんの症状に合わせて、特定の生薬を加えることができます。
また、単味散剤の種類は少ないですが、生薬を粉末にし、漢方エキス剤に追加して服用することも可能です。薬局には嫌がられるかもしれませんが(→「散剤」)、生薬の粉末にも保険が適用されるので、患者さんの負担も増えません。詳細は各方剤で解説します。

ここで問題となるのが、加えてよい生薬とよくない生薬がある点です。生薬は多くの場合、煎じて、つまり加熱工程を経て服用するものと考えられています。加熱してはじめて薬として作用する生薬もあるのです。

この判断については、簡単な方法があります。古典で散剤(五苓散、当帰芍薬散など)や丸剤(桂枝茯苓丸や八味地黄丸など)として用いられている生薬はもともと加熱されない前提で考えられています。つまり加熱しなくても、いえ加熱しないほうが効果が高い生薬です。これらの生薬は粉末にして漢方エキス剤に追加することが可能ということです。

一般漢方製剤を活用する

保険収載ではない、薬局に売っている一般用漢方エキス剤の活用を患者さんに勧めることも有効だと考えます。保険が効かないので、と心配される患者さんもいらっしゃるかもしれませんが、メーカーが発売しているものは大体がそんなに高いものではありません。診察代もかかりませんし(その是非は別として)、調剤薬局での調剤料もかかりませんから、最終的な負担額はそんなに変わらない、なんてこともあると思います(相談薬局の場合は価格が様々なのではじめに価格確認が必要ですね)。

そもそも保険収載の漢方エキス剤は、伝統的に使われてきた方剤の一部にしか過ぎないのですから、保険収載されていない優秀な方剤が一般用漢方エキス剤にあることがあります。実際、生薬の組み合わせとして良いものがあります。治療者側から提案してあげるということも必要かもしれません。

食事に注目する

ナガイモ(山薬/薯蕷)

ナガイモ(山薬/薯蕷)

漢方生薬の中には私たちが食する身近なものが結構あります。みかんの皮(陳皮)、くず(葛根)、はとむぎ(薏苡仁)、シナモン(桂枝)、ナガイモ(山薬/薯蕷)などです。これを食生活に取り入れる、または薬を服用するときに一緒に食す。薬膳ですね。こういったことも患者さんにアドバイスすると良いと思います。