古典に忠実なわけではない
何故日本では生薬使用量が少ないのか
漢方エキス剤の生薬配合量は、中国の古典に記されている方剤中の生薬量よりも少ないです。
生薬配合量の比較(例:桂枝湯)
現代の中国と比較しても、1日あたりの服用生薬量は、中国:日本=3:1くらいでしょうか?これはどういうことなのかと疑問に思った方も多いでしょう。
現代中医学を学んだ治療者には「こんな量では効かない!」という意見もあるようです。生薬配合量が多いからでしょうか、中国では2番煎じまで服用することも多いようです。
元々日本では中国の古典に記載されている量よりも生薬使用量が少なめでした。その理由は
- 水の硬度が違う
- ほとんどの生薬は輸入に頼っていて高価なものであった
ということがあります。
水の硬度が違う
現在、日本の水はpH5.8~8.6程度の軟水(硬度平均50mg~60mg)です(参考:「厚生労働省 水質基準項目と基準値(51項目)」)。
一方、中国は国土が広いので一概には言えませんが、pH6.5~8.5程度の硬水(地域差が大きく、硬度にも360mg~100mgと幅があり、軟水の地域もある)です。上下水道が整備され、その硬度も日本より少し高めであるぐらいなのであまり違いがあるとは言えません。
しかし、上下水道が整備される以前は、両国間で水の硬度に違いがありました。当然、煎じる際の生薬成分抽出効率が違いますし、溶け出す成分にも違いがあっただろうと思われます。煎じ薬は慎重に運用する必要がありました。
ほとんどの生薬は輸入に頼っていて高価なものであった
水の違いもそうですが、中国伝統医学が日本化していく過程で、この生薬量の問題は避けて通ることができませんでした。価格が高く、しかもいつ入荷するかわからないのですから、薬効を得ることができるギリギリの量が模索されたのです。
江戸時代には栽培が試みられましたが(参考「日本におけるトリカブト」)、現在に至っても国産化はあまり進んでいません。中国からの輸入が途絶えれば、この医学は日本では成り立たなくなるでしょう。
また、代替品も工夫して使われました。しかし、工夫の過程で基原が異なってしまった生薬も多く、薬効が違ってしまっているものもあります。
その他の事情
現在の中国ではこの伝統医学を専門に学習する中医学院が多くあります。生薬量が多いということは効き目も絶大ですが、副作用も多くなります。そのことに対する専門性が高いのでしょう。
また、国民性の問題があります。中国では、1人1人が自身のカルテを持ち、自分で医師に見せるという感覚があります。健康は自己責任なのです。ですから、効果がないと患者は2度と来院しません。どうしても、副作用への配慮より、ビビットな効果が求められる傾向があるのでしょう。
『傷寒論』『金匱要略』が生まれた漢代の1両は現代の何gなのかについて、資料や解説書によって違いがありますが、一説には1両=約13.75gとされています。
時代により度量衡は変わります。統治において、度量衡と暦を独自のものにすることは非常に重要だったためです。広い国土を有する中国は、いくつもの国に分裂していた時代も長いですし、その国境も動きます。資料も多いでしょう。