漢方エキス剤とは何か

漢方エキス剤とは何か

漢方エキス剤とは何か

「エキス」とは、植物や生薬を水やアルコール、あるいはエーテルなどの溶媒に浸して含有成分を溶かし出し、その後に水や溶媒を蒸発で除き成分を濃縮したもので、化学成分の混合物です。オランダ語や英語のExtractエキストラクト(抽出)から来ています。

エキスと似たものに「チンキ」という製剤がありますが、これは生薬などを水とアルコール混合液あるいはアルコールのみで進出したままの製剤で、エキスのように濃縮することはしていません。

漢方エキス剤

漢方エキス剤

煎じ薬は、複数の生薬を煎じて(煮出して)作る薬ですが、この煎じ薬をエキス化し、顆粒や錠剤、カプセルにしたものが漢方エキス剤です。長所と短所がありますが(→「エキス剤の長所と短所」)、成分的に煎じ薬と同じものと考えてよいでしょう。


漢方エキス剤の開発

漢方エキス剤は日本で開発された商品です。ヒントはインスタントコーヒーだったようで、小太郎漢方製薬が開発しました。

目指したのは利便性と安定した品質、つまり、煎じる手間をなくし、持ち運びが容易になるように、また、生薬が天然物であること、煎じ方に個人差があることで生まれる品質の揺れを一定に保つことでした(→「漢方エキス剤の長所と短所」)。

日本で漢方エキス剤が開発できた理由は、日本独自の漢方診療方法である「日本漢方」にあります。日本漢方は「方証相対」と言われる、病態から即処方を導く「パターン化」による簡便な手法です。従って、構成生薬を加減することも、新規処方を作ることも多くはありませんでした。日本漢方は『傷寒論』中心なので、『傷寒論』を中心とした古典に記載されている方剤をエキス化して行ったのです。

漢方エキス剤が発売された時、明治の断絶から細々と漢方を伝承してきた医師・薬剤師からの評判は「あんなものは漢方ではない」というものだったそうです。「医師の9割が漢方エキス剤を使用したことがある」状況になるなんて、誰が予測したでしょう。

漢方エキス剤が保険収載された!

1957年、小太郎漢方製薬株会社から薬局向けの一般用漢方薬として35方が発売され、まず大衆薬として普及した後、1967年、同じく小太郎漢方製薬の葛根湯、五苓散などの6処方が医療用漢方製剤として保険収載されました。1976年には、複数の漢方エキス剤メーカーの漢方エキス製剤42処方が保険収載され、以後漢方エキス剤は急速に普及していきます。現在(2022年)では148処方が保険収載されています。

漢方エキス剤の保険収載が始まった当時、時代は日中国交回復の機運がありました。そんな背景があり、漢方エキス剤は当時の医師会長・武見太郎の剛腕によって、二重盲検法を経ずに、2000年の経験値のみで押し切って保険収載された経緯があります。この事は現在の厚生労働省としても思うところがあるようで、現在採用されている漢方エキス剤以外、今後新たな漢方エキス剤が保険収載されることはほぼないと考えられます。

日本薬局方には、1967年から薬効が明確に証明されてきたものから順次収載され始めました。効果のメカニズムがわからなくても臨床的に有効であるというデータが多いこともあるでしょう(参考「厚生労働省 日本薬局方」)。