口訣

先人たちが様々な患者の訴えや所見から汲み上げてきたドキュメント

漢方を少しかじったことがある方は「口訣くけつ」という言葉を聞いたことがあると思います。
現在漢方薬を処方するといったらエキス剤で、その処方の決定は「病名漢方」と言われる病名からの検索です。ただ効果がある時とない時があり、困った医療者は次に口訣を使うことが多いようです。

エキス剤

エキス剤

「口訣」とは、先人たちが様々な患者の訴えや所見から苦心して汲み上げてきたドキュメントです。エキス剤メーカーが作成している手帳に書かれていて、馴染みの薄い漢方薬を処方する時、参考にするためにページをめくる治療者は多いでしょう。「比較的体力中程度でのぼせ気味で顔色赤くイライラする傾向のもの」なんていう、「アレコレがあれば〇〇湯が効く」といったものです。病名+コツですね。効果がある患者さんが少し増えます。

これらは経験値の中で、評価に耐えたものと考えられています。漢方復活、保険収載に力を尽くした昭和の漢方大家のコンセンサスを得たものなんですね。


一般的に口訣は有用なものが多いのですが、偶然を必然と誤ってしまった残念なものも少なくありません。それゆえ、漢方書にある口訣を読むときは安易に飛びつくことなく、どうして、なぜこのようなことが言えるのだろうと自問自答することが必要です。「書物に載っているから」「大家がこう言っているから」と鵜呑みにしてはいけません。

科学の進歩の中で、漢方も科学で理解しようという動きは必然で、一部のエキス剤を「適応病態に対応する薬理作用を有する」という根拠で処方される方も多くなってきています。脳神経外科・内科の五苓散、消化器科の大建中湯がその代表例です。また、気象病の片頭痛における脳浮腫を五苓散が改善する作用機序が明らかにされ、頻用されています。術後イレウスを改善する大建中湯の作用機序も詳しく解明されています。

しかし、残念ながら漢方方剤(煎じ薬、エキス剤共に)については、適応病態の解明もエキス剤の薬理作用も十分ではありませんから、口訣が今なお有用なのでしょう。

病名や口訣が漢方ではないと嘆いておられる漢方医もおられますが、それでは何が漢方なのでしょうか。
経験値ですか?学習ですか?何を学習したら良いのでしょう?日本漢方ですか?中医学ですか?
進歩の著しい西洋医学も勉強しなければならない現代の医師にとって悩ましい選択です。